愛染明王像
絹本著色 一幅 94.6×48.5 室町時代
■寺宝よもやま話■ ― 愛染明王 ―
浄土宗である当寺所蔵の仏画の中では、極めて特異な図像です。
仏教では慈悲が中心であって、愛といえば煩悩を意味し、愛着・愛執のように用いられます。
そして愛染とは、男女の愛欲にとらわれ執着する心をいいます。
愛染明王は愛欲に迷う人々をそのまま悟りの世界に至らしめることを示す明王なのです。
この像は、全身を真っ赤に塗られています。
燃え上がる愛欲の激しさを象徴しているようであり、三つの眼は激しい怒りに燃えているようです。
愛欲に囚われている者を、激しい怒りの姿で目覚めさせ、救わずにはおかぬ、という明王の強い意思の表れでしょう。
愛染さんといえば、昔から花柳界で働く女性に信仰されているようです。
腐れ縁の男との仲を断ち切るためか、あるいは反対に、好きな男との仲を深めたいためか。
色欲におぼれることなく、身を滅ぼされることなく、愛欲を浄化させ、真に人間として生きる活力を与えるために、愛染明王は存在するのです。