大覚寺のご紹介

人生を健やかに生きていくための説法を
毎月、御紹介していきたいと思います。

2011年(平成23年)4月のミニミニ法話・お説教

2011年(平成23年)4月

玄禮和尚のお説法

2011年(平成23年)4月

~ 第037回 「代受苦者」 ~

  
 「悲しみを抱えながら生きねばならぬ母親の叫びが聞こえる。親を亡くした震災遺児。孤独死の穴に落ちていくお年寄り。彼らも心に深手を負った人たちだ。 『心のケア』はよく言われるが、傷ついている人への支援が十分に進んでいるとはいえないだろう」

 この文は仙台に本社を持つ河北新報のコラムの一部です。
ただしこの度の東北大震災の記事ではありません。

これが書かれたのは1999年1月17日。
阪神淡路大震災の4年後、神戸の復興に寄せた、いわばエールなのです。

 2011年3月11日。仙台始め関東・東北地方が壊滅的な災害に襲われました。
3月末現在、死者の数は11232人。
宮城県だけでも6843人に及び、阪神大震災の死者の数を越えています。

海に囲まれた火山列島日本に、いつ、どこで、どんな災害が起きても不思議ではないのですが、M9.0の巨大地震と二次災害である津波と、それに加えて原子 力発電所の事故による放射能被害の三重苦なのです。

 仏教では、自然災害による犠牲者を「代受苦者」といいます。自分の代わりに苦しみを受けて下さった人々、という意味です。

今回は地震の震源地が宮城県沖であったので、太平洋側の東北地方が主な被災地となったのですが、これが京都花折断層や南海沖が震源地であれば、永観堂や網 干の大覚寺も確実に被害を受けているでしょう。

私や家族が受けていたかもしれぬ苦しみを、今回、関東・東北地方の人々が代わって受けられた。そう思うと、人事ではすまされないのです。

 今、自分になにができるか。
宗派としてどう対処すればいいか。

宗務所とも協議し、急遽、災害対策本部を立ち上げ、特別災害対策基金から救援金を支給し、同時に全国の末寺に対して義捐金の要請をしました。

個人としても新聞社を通じて救援金を寄託いたしました。
本山の受付で拝観にこられる方々に協力を呼びかけ、私の著書や色紙を買っていただいた浄財をすべて被災地に送ることにしています。

宗派の京都布教団の有志が、四条大橋に立って募金の活動を始めています。
またこの派の兵庫青年会の6人の若手僧侶が、岩手県庁と連絡をとり、現地のボランティアセンターの指示を受け、5日から陸前高田市へ入り、現地で炊き出し やご遺体への読経をするべく準備を進めています。本山も全面的にこれをバックアップします。

 そして今、永観堂では「加行」という、僧侶の資格を取るために17歳から58歳の22名の雛僧が過酷な修行をしています。

朝4時・昼10時・夕4時の三回、凍るような寒さのなかで水をかぶり、その後2時間余りの時間、勤行に集中します。その時、代受苦者の冥福を祈り、被災者 の早期復興を願って全員で念仏を唱え回向しているのです。

 冒頭の新聞のコラムは、次の言葉で結ばれています。

「街の再建にはセメントや鉄を注ぎこめばいい。しかし、人生の再建にセメントは使えない。人生の再建に立ち向かわねばならぬ人たちの声に、耳を澄ませた い」





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