大覚寺のご紹介

人生を健やかに生きていくための説法を
毎月、御紹介していきたいと思います。

2011年(平成23年)9月のミニミニ法話・お説教

2011年(平成23年)9月

玄禮和尚のお説法

2011年(平成23年)9月

~ 第042回 「その命、私にください」 ~

  
 中学の校長をしておられた柴山一郎先生が、次のような話を紹介しておられます。

 当時、その中学に鈴木千代子という生徒がいました。2年生の時、ブラスバンドの練習中に突然倒れ、搬入された病院で「膠原病」と診断され、余命2年の宣 告を受けたのです。

それでも千代子さんはめげることなく、高校受験に挑戦し入学を果たしたものの、入退院の繰り返しでした。倒れるたびに死の恐怖と向き合いながら、懸命に生 きたのです。

 その頃のことを千代子さんのお母さんが、日記に綴っています。

「この七年間、いろいろなことがあった。学校で激痛がきて授業をこわしたこと。四年目の高校卒業、そして大学受験と予備校通い。千代子は最後まで病気の克 服と自立をあきらめなかった。

成人式には振袖を着て出席し、旅行にも行き、ジャズダンスもならった。死の影などみじんも見せない娘だった。発病の日から二千五百余日を数えたのである」

二年生存のはずが、彼女の気力で七年に延びたのです。それにしても21年の生涯は、あまりにも短かすぎます。

 迫り来る死を見つめながら、彼女は次のような文を書いています。

「自殺なんかなぜするの。私はテレビに向かって叫んだ。孤独だったというけれど、体が丈夫なら毎日学校へ行けるんだし、クラスの中には一人くらいお友達が いたはずよ。せっかく生まれてきた大切な命を自ら捨てるなら、その命、私にください」

 この叫びを残して、千代子さんは逝きました。自宅の庭には「千代子菩薩」と彫られた高さ50㎝の石像が立っているそうです。

福祉の仕事につくのを夢見て明るさを失わず、強く美しく生き抜いた少女の姿が、この石像には込められている、と柴山先生は書いておられます。

与えられた命を、福祉という他人の幸せのために尽くす仕事につきたい、と願った千代子さんは、まさに菩薩というにふさわしい生き方だったのです。

 浄土宗西山派の派祖・証空上人は
「衆生の重んずるところ、命に過ぎたるはなし」

と述べられています。人がもっとも大切にしなければならないもの、それは命に他ならない。命以上のものはない、といわれるのです。

 この一日は大切にすべき一日です。この一瞬の命は尊ぶべき命です。

一つしかない命だから、二度とない人生だから、この一日を大切に生きねばなりません、と千代子菩薩が呼びかけています。
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