2012年(平成24年)1月のミニミニ法話・お説教
2012年(平成24年)1月
~ 第046回 「辰の年に思う」 ~
新しき年の始めの初春の今日降る雪のいや重(し)け吉事(よごと)
大伴家持が因幡の国庁で詠んだもので、万葉集4516首の最後の歌です。年の始めに降る雪のように、良いことが積み重なることを願った歌です。
特に昨年は、東日本大震災によって引き起こされた数々の不幸な出来事があったため、余計に難を転じて吉事が重なることを願わずにおれません。
私たち人間にとって幸せとはなにか、と問いかけられた時、あなたは何と答えますか。作家の田辺聖子さんは「自分を理解してくれる人の傍にいることだ」と 言っています。
大切な家族のみならず、家も仕事も失い、仮設住宅で新年を迎えた東北の人々にとっては、素直に「おめでとう」といえる心境ではないでしょう。
が、多くの日本人は被災された方々の悲しみを理解し、同悲の心で寄り添い支援を続けていこうとしているのです。
人は心の中に引いた線を、心を新たにして越えていくこともできます。絶え間ない時の流れを暦で区切って、元旦にけじめをつける習慣を伝えてくれた私たち の先祖の英知を素晴らしいと思うのです。
この日、人は過去を振り返り、現在を見つめ、未来への夢を描く瞬間を持ちます。それは人生の句読点でもあるのです。
さて、明けて迎えた辰の年。辰(しん)は伸(しん)に通じ、すべてのものが動き伸びることをいいます。
日が動き始めれば「晨(あした)」。手が動けば「振(ふるう)」。新しい生命を宿せば「娠(みごもる)」。言葉を発するのは「唇」。貝(金)が動けば「賑 (にぎわう)」。言葉も行動も財産も、使い方によって人を幸福にも不幸にもします。
仏性という仏さまの生命を宿し、生かされているという自覚から、自然に手が動いて合掌。唇に念仏の一行を励めば、明日の幸せが約束されているのです。
そこで、新年にあたって次の言葉を贈ります。
「今日という日は、これからの人生の最初の一日である」
私たちは悲しみや苦しみに出会ったり、仕事に失敗したりすると、くよくよとして心が迷います。そんな時、この言葉を胸にたたんで、新しい一日を歩いていき ましょう。