2012年(平成24年)3月のミニミニ法話・お説教
2012年(平成24年)3月
~ 第048回 「同悲する心」 ~
弥生三月。卒業・就職・転勤と、春は別れと出会いの季節です。
遅れていた梅の花だよりも聞こえてくるけれど、もっと辛い別れを体験された多くの人のことを思うと、花に浮かれる気分にはなれません。
東日本大震災から一年が経過しました。津波で失われた多くの命にとって、一周忌を迎えます。春の彼岸が来ても、墓参りさえ出来ない被災者の多くの方々の 心を思えば、ただ手を合わせ祈るばかりです。
3月11日の大震災発生以来、朝夕の勤行で一日も欠かさず亡くなられた方々の回向をしています。
仏教に「代受苦者」という言葉があります。本来は地蔵さまのように自ら地獄に落ちて苦しむ人々を救う菩薩行をいうのですが、「自分が受けたかもしれぬ苦 しみを、私に代わって受けられた人々」と位置づけて一年間、回向を続けてきました。
金子みすゞさんの詩を発見し世に出された童謡詩人・矢崎節夫先生は震災の三日後に永観堂の参詣され、たまたま私の語る法話の中の「代受苦者」という言葉 に大変感銘を受けた、と述べられています。
「被災者という言葉には、他人事のような冷たさがあります。私に代わって苦を受けられた人という代受苦者には、他人事でない自分のこととして共に悲しむ 心があります。これこそ『みすゞの詩の心』なのです」
過日、京都会館での講演会で矢崎先生は、多くの聴衆にそのように語られました。
『慈心相向』という言葉があります。「慈しみの心で相手と向き合おう」という意味で、善導大師の言葉です。
この一年、被災地へ何度も赴き、涙しながらボランティア活動に取り組んだ若者たちが大勢います。この涙の中に、涙した者しかわからぬ尊いものがあります。
これを「慈心」といい、「同悲心」ともいいます。自分の悲しみを通して他人の悲しみを知る心です。
同 悲するこころが、人間愛の基本なのです。