大覚寺のご紹介

人生を健やかに生きていくための説法を
毎月、御紹介していきたいと思います。

2012年(平成24年)8月のミニミニ法話・お説教

2012年(平成24年)8月

玄禮和尚のお説法

2012年(平成24年)8月

~ 第053回 「乳哺養育(ニュウホヨウイク)の恩」 ~



 上野動物園のジャイアント・パンダ、シンシンの雄の赤ちゃんが、先月11日に肺炎で死んだというニュースは、多くの人々をがっかりさせましたが、誰より も悲しみが深かったのは、元園長の中川志郎さんではなかったでしょうか。

その中川さんが、まるで赤ちゃんパンダのあとを追うように7月19日に亡くなりました。若い頃は「パンダ課長」と呼ばれ、パンダだけでなく多くの動物に愛 情を注ぎ、「動物たちと人生を歩んできた人」ともいわれています。

 以前、中川さんが「哺乳動物の母親と子どもが体を接触されるのに、三つの型がある」と書かれているのを読んだことがあります。

 一つは、猿のような「抱擁型」。生まれた子どもを、ある期間、自分の体に抱きかかえるというタイプです。

 二つ目は「舐触(ししょく)型」。子どもの体を舐める動物です。虎やライオンのような肉食動物も、キリンやシマウマのような草食動物も、母親は実によく 子どもを舐めます。

 そして三番目は「添い寝型」。イタチや熊などのような、子どもが未熟な状態で生まれる種類に多いのだそうで、母親は体を丸めて、添い寝するように子ども を抱え込むのです。

いずれにしても、母親と子どもが体を密着させるということが興味深いですね。この時期にそういう接触をさせないと、子どもの心理的発達に障害が出る、とい われます。

 人間もまた、哺乳動物ですね。
子どもが幼い時に母親と充分な接触が得られないと、他人と親しい関係が保てなくて、人生に無関心で、衝動をコントロールできないのだそうです。

 「父母恩重経」の中に、この時期に親から子どもが受ける恩を十種類説かれていて、その第四番目に「乳哺養育の恩」があります。文字通り抱擁し添い寝しな がら母乳をいただいて育ててもらった恩があるのです。

 親を選ぶ自由を持たない子どもと、子どもを選ぶ自由を与えられていない親との不思議な出会いによって、人は生まれます。そして、子どもを思う母親の思い は、重く深いのです。

その愛は仏さまの慈悲にも通じるのです。

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