大覚寺のご紹介

人生を健やかに生きていくための説法を
毎月、御紹介していきたいと思います。

2013年(平成25年)5月のミニミニ法話・お説教

2013年(平成25年)5月

玄禮和尚のお説法

2013年(平成25年)5月

~ 第062回 「青嵐(セイラン)に吹かれて」 ~

 冬の寒さがきびしい年は樹木がよく茂る、といわれています。

そのためなのか、永観堂の楓の若葉は例年にも増して勢いがあり、境内を吹き渡る風が若葉の香りを運んできます。

気持ちの良い、爽快な薫風です。木の芽風、若葉風など、さまざまな呼び方がありますが、坂本冬美さんの歌にも「青嵐に吹かれて」というのがあります。

 永観堂の若葉の代表選手は楓ですが、もう一つの代表はなんといっても楠木ですね。一種赤みを帯びた新芽が萌え上がるこの頃、それが日の光に輝くと私たち の心までキラキラさせてくれます。

不思議なことですが、この季節、楠木の下にいると、風が吹かなくてもパラパラと葉が落ちてきます。まるで落ち葉の季節のように。

 常緑樹の古い葉は、若葉が育つのを見届けて、枝から離れ落ちるのだそうです。

そういえば、「譲葉」(ゆずりは)という木もあり、若い芽をきちんと見届けてから、古い葉は静かに青嵐に吹かれて舞いながら落ちていくのです。幸せな、そ して見事な世代交代ですね。

 楠木の成長は決して早いものではないけれど、着実に大木となっていきます。(代表的なのは青蓮院さんの五本の楠の巨樹で、京都市が天然記念物に指定して います。)

そんなことから進歩は遅くても必ず大成する学問を「楠の木学問」と呼ぶのだそうです。

 その反対に、梅の木は生長が早いわりに大木にならないので、進み方は速いが大成しないままで終わることを「梅の木学問」といいます。

スピードが求められる時代ですが、大成するには速さは関係なさそうです。あきず、あせらず、あきらめず。ゆっくりとマイペースで行くことが大切だ、という ことを楠木の成長に学びたいものです。

  楠千年さらに今年の若葉なり  荻原井泉水
 
 福岡にある大宰府天満宮の楠の巨木の横に、この句碑があります。千年のいのちを持つ楠の老木が、今年も若葉を茂らせた。そこに生命の厳かさを感じます。

それは私たちの生命にも通じます。脈々と続いた先祖のいのちを受け継いで、今、自分のいのちを生きている。そして次の世代へ、さらに未来の子孫の生命へと 連なるいのちなのです。

親から与えられたいのちに感謝しつつ、精一杯生き抜いて、悔いなく幸せな世代交代ができたらいいな、と願っています。


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