大覚寺のご紹介

人生を健やかに生きていくための説法を
毎月、御紹介していきたいと思います。

2016年(平成28年)5月のミニミニ法話・お説教

2016年(平成28年)5月

玄禮和尚のお説法

2016年(平成28年)5月

~ 第098回 「良寛さんの見舞状」 ~

 東日本大震災の5周年にあたる3月11日、物故者の追悼法要を勤めました。

その1カ月後に熊本で地震が発生するとは思いもよりませんでした。天災は忘れぬ先にもやってくるのです。

この原稿を書いている現在、本震・余震合わせると1000回を越え、地震による死者は49人。関連死の疑い14人、家屋の倒壊は1万棟。避難者は4万人を越えています。

尊い命を亡くされた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された人々が1日も早く平常の生活に戻ることができますことを心より念じます。

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 良寛さんが71歳の文政11年(1828)、越後の三条を襲った地震は近世のこの地における最大のものでした。

全壊13000余軒、死者1600名という大惨事でした。その時、良寛さんが知人に送った見舞い状があり、そこに次の歌が添えられていました。

「うちつけに死なば死なずて永らえて かかる憂き目を見るが侘しき」

(突然の災難に遇って死ねばよかったのに、死ぬこともなく生き永らえて、こんなつらい目を見るのは侘しいことだなあ。)

この歌の後に、次の文が続きます。

「しかし災難に逢う時節には災難に逢うがよく候。死ぬ時節には死ぬがよく候。是はこれ災難をのがるる妙法にて候」

 これだけを読めば「良寛という人は、なんと冷たい人か」と思う人もあるでしょう。現実に被災している人を前にして云う言葉ではありません。

この言葉は71歳という老齢の自分自身への覚悟を述べているのです。

「災難に逢えば、自然のことだから仕方なくうろたえないで逢い、死ぬ時が来たら安んじて死ねばいい。そういう覚悟を持って生きていけばいいのだ」

 いかにも「任運」(運にまかせて、ゆったり生きる)を処世訓とした良寛さんらしい、達観した言葉です。

それでも災難に逢って命を亡くしたり、被災した人たちの惨状を見ると、涙がとめどなくあふれる良寛さんだったのです。

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 まだ余震が断続的に続く熊本に宗門の青年僧や宗務所の職員が派遣され、支援活動を始めています。

ささやかでも各自が自分で出来ることを、長く継続していかねばなりません。毎朝の勤行の折には、物故者の冥福を本尊「みかえり阿弥陀仏」に祈念しています。

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