大覚寺のご紹介

人生を健やかに生きていくための説法を
毎月、御紹介していきたいと思います。

2016年(平成28年)9月のミニミニ法話・お説教

2016年(平成28年)9月

玄禮和尚のお説法

2016年(平成28年)9月

~ 第102回 「慈心(じしん)相向(そうこう)」 ~

 - 柿食へば鐘がなるなり法隆寺 -

 この俳句で知られた俳人で歌人でもあった正岡子規は、肺結核に冒されさらに脊髄カリエスという厄介な病魔に痛めつけられて、明治35年、柿の実が赤く色づく9月19日、満34歳の若さで亡くなりました。

彼は病人の看護について、次のように書いています。

「病人の苦しみや楽しみに関係する問題は、家庭の問題である。介抱の問題である。病気が苦しくなった時、人は衰弱のために心細くなった時は、看護のやり方一つで病人の苦しみや楽しみに大きな関係を及ぼすのである」と。

 この正岡子規の訴える病人の立場を、病弱な年寄りと置き換えて読むと、老人の介護にもそのまま通じるように思います。

要するに子規が言いたいのは、相手の立場に立って何が必要か、想像力を働かせることの大切さだと思うのです。

 今、日本人の平均寿命は延びました。今年の7月に厚生労働省が発表した2015年の平均寿命は、男性80.79歳。女性は87.05歳。

女性は3年連続で世界一、男性は香港・アイスランドに続いて第3位という長寿社会です。

ただ、健康で全うできれば何よりですが、なかなかそうはいきません。病気などで日常生活が制限されない「健康寿命」は、女性74.21歳、男性71.19歳だそうです。

 子規が言うには、「心細い時、巧みに慰めの言葉をもらうと、それだけで苦しみが薄らぐ。介抱の仕方が多少まずくても、同情心さえあれば腹は立たない」と。

 そんな事を考えると、長寿社会に求められる大事な一つの要素は、人が相手の身になるという、思いやりの心でしょう。

老いに優しい社会とは、みんなが飾らない、心のこもった言葉を掛け合うことだと思います。

 仏教に「慈心相向・仏眼相看」(じしんそうこう・ぶつげんそうかん)という教えがあります。

「慈しみの心もって相向かい、仏の眼差しをもって相看る」と読みます。
今の長寿社会に最も必要な教えです。

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