大覚寺のご紹介

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2016年(平成28年)11月のミニミニ法話・お説教

2016年(平成28年)11月

玄禮和尚のお説法

2016年(平成28年)11月

~ 第104回 「無声の念仏」 ~

 浄土宗の年中行事の一つに「お十夜」という秋の法要があります。

「この世で十日十夜良いことをすれば、仏さまの国で千年良いことをするより勝る」という教えに基づいています。

昔は十日間勤めていましたが、近年では一日~二日に縮小されています。

 もう40年ほど前、北海道の浄土宗の寺院18か寺で勤まるお十夜の法要の説教を本山から任命され、10月24日から1カ月かけて道内を巡教したことがあります。

道中、美唄市の沼貝寺さんへ赴いた時。当時の住職は高橋泰岳師というご老僧でした。

喉の手術をされ、前日退院されたという住職の居間に挨拶に伺いました。父からの言付けもあったからです。

ふとんの上に白衣姿の泰岳師にその旨を伝えると、返事が返ってこないのです。

便箋大の紙になにかを書いて私の前に差し出された文は「ようこそ来て下さった。師匠はお元気か」とありました。

手術のため声を失っておられたのです。しばらく筆談が続きました。

 二日目の最後のご満座法要に、泰岳師は「わしも出る」といわれて色衣に七条の袈裟を着けられ、本堂正面の導師の座に座られたのです。

参詣者は久しぶりに住職の姿を見て大喜びでした。やがて法要が始まりました。勿論、住職もお経を唱えておられるが、声は出ません。

いよいよ法要の最後に住職が「願以此功徳」と発生し、「阿弥陀如来十夜会広大慈恩」と回向の偈のあと念仏を十回唱えるのです。

「どうされるのだろう」と案じていると、隣に座っている息子さんが代わって唱えられました。

そしてお十念の時、泰岳師は左手をさっと上げて息子さんを制されました。「それは俺がいう」という意志表示です。

内陣に居並んだ組寺の住職さんも参詣者も息をのみました。声の出ない住職が念仏を唱える、というのです。

 やがて、おもむろに合掌した泰岳師の口から出たのは「ハッ、ハッ、ハッ・・・」という息だけでした。堂内は静まりかえっていました。

でもそれは、まぎれもなくナムアミダブという念仏の声でした。参詣者は普段の元気だった泰岳師の声を思い浮かべながら、涙をこぼして聴き入ったのです。

私が今まで聞いたお念仏のなかで、最も尊いお念仏でした。その翌年、泰岳師はお浄土に還られました。

 お十夜が来ると、あの「声のない念仏」を想いだすのです。

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