大覚寺のご紹介

人生を健やかに生きていくための説法を
毎月、御紹介していきたいと思います。

2017年(平成29年)9月のミニミニ法話・お説教

2017年(平成29年)9月

玄禮和尚のお説法

2017年(平成29年)9月

~ 第114回 「曼珠沙華」 ~

 今年の夏は例年になく暑い日が続いて、そして今度は一転して雨・・・。

こんな不順な気候であっても、秋の彼岸が近づいてくると、不思議な緑色の茎がまっすぐに伸びてきて先端の蕾が膨らんで、赤い花が開いて、「さあ、お彼岸ですよ!」と毎年教えてくれる彼岸花。

 インドの古い言葉(梵語)では「マンジュシャカ」。音写して曼珠沙華。「天上の赤い花」という意味があります。

葉のない茎に怪しく火のような色で、田んぼの畦や、どういう訳か墓地に群れて咲きます。水仙やアマリリスと同じ種類ですが、球根は食べられないといわれています。

一説によると、実際は食べられるのだが、さわると手が臭くなるので「手くされ」と呼んだり、あえて墓地に植えて「葬礼花」「死人花」「幽霊花」と呼んで人が不吉な思いをするようにしたのは、風水害や飢饉の時の非常食にするためであった、というのです。

 正岡子規の数少ない小説の中に、『曼珠沙華』というのがあります。金持ちの息子と、ひどく貧しい家の娘との恋物語です。

ある日、娘は傾く西日に赤い毛氈のように咲く曼珠沙華をつんで糸に通していました。「この花が好きだ」というのです。男は驚いて聞きました。

「それは葬礼花、死人花じゃというて人のいやがる花じゃないか。葉も枝もなんにものうて、それが好きかい?その誰でも嫌う花が・・」

娘は答えました。「そうじゃけん、可愛がってやるのじゃが」

 娘も貧しさゆえに人から嫌われていたのです。貧しさや、姿かたちの醜さゆえに憎まれたり、嫌われたりすることが、どれほど堪えがたいことであるか・・・。

だからこそ娘は彼岸花に愛おしさを感じていたのですね。

  曼珠沙華抱くほどとれど母恋し  中村汀女
  お彼岸のお彼岸花をみ仏に    種田山頭火

 お彼岸は自然を讃えて生物を慈しんで、祖先を敬って亡き人々を偲ぶという期間であり、昼と夜の長さがほぼ同じで、太陽が真東から昇って真西に沈むことは御存じの通りです。

そんな自然現象になぞらえて、左右いずれにも偏らぬ中道を歩む仏道実践の週間でもあるのです。

そして、あなたの命につながっているご先祖や親の命を、ぜひ偲んでいただきたいものですね。

法話一覧へ