大覚寺のご紹介

人生を健やかに生きていくための説法を
毎月、御紹介していきたいと思います。

2010年(平成22年)12月のミニミニ法話・お説教

2010年(平成22年)12月

玄禮和尚のお説法

2010年(平成22年)12月

~ 第033回 「烏兎怱々」ウトソウソウ(花信風法話・8) ~

  
 河の流れにも似て、月日にも澱みがありません。早くも師走となって、カレンダーも残り一枚になりました。神社の中には来年の干支のウサギの大きな絵馬 を、本殿の前に掲げた所もあります。

 兎といえば、月日のたつことの早いさまを「烏兎怱々」といいます。太陽の中には三本足の烏が、月の中には兎が住むという言い伝えがあり、日月の流れに特 別な感情を抱いた言葉です。怱々とは、あわただしい・忙しい、という意味があります。

 唐代の善導大師は、「人間、怱々と衆務を営み、年命の日夜に去りゆくを覚らず」と述べて、毎日をうかうかと過ごさず、若くて元気な間に本物の幸せを見つ けよ、と警告しています。

 ところで、西条八十の詩に「ある大晦日の夜の記憶」というのがあります。
「 その夜は粉雪がふっていた。 / わたしは独り書斎の机に座って /  遠い除夜の鐘を聞いていた。 

  風の中に断続するその寂しい音に聴き入るうちに /  わたしはいつかうたた寝をしたように想った。 / と、誰かが背後からそっと羽織を着せてくれ た。

  わたしは眼をひらいた。 / と、そこには誰もいなかった。 / 羽織だと想ったのは静かにわたしの身に積もった一つの歳の重みであった。 」

 一つ歳をとった重み。羽織一枚の重み、それはなにか計量器で計れるというものではないのです。心の底にそっと、しかし、普通の重みとは異なる重量感を感 じさせます。

私にとっても、今年は特別に重みのある一年でした。羽織一枚ではなく、衣一枚の重みです。衣の色が変わるだけで立場と環境が激変し、その責任感と緊張感の 重みに耐える一年でした。

 その上、さまざまな悲しい別れがありました。そして、新しい出会いもありました。人はみな、別れと出会いを繰り返し生きていくのです。この重みを心の奥 にしまいこんで、新しい年の活力としたいですね。

 あなたの今年一年の歩みは、どのようなものであったでしょうか。二度とない人生。自分にしかない人生。であるからこそ、確実に、おおらかに歩み続けなけ ればなりませんね。

この年の重みを受け止めて、前向きに新年を迎えることにいたしましょう。
法話一覧へ