大覚寺のご紹介

人生を健やかに生きていくための説法を
毎月、御紹介していきたいと思います。

2010年(平成22年)6月のミニミニ法話・お説教

2010年(平成22年)6月

玄禮和尚のお説法

2010年(平成22年)6月

~ 第027回 「恩送り」 ~

 五月には「こどもの日」と「母の日」があり、六月には母の日に比べると多少影が薄いけれど「父の日」があり、家族の絆を深める月 となっています。

 あなたの両親はご健在ですか。どうも親というものは、というより父親というものは、生きている間は鬱陶しくて煙たくて、うるさい存在のように思われがち です。けれど、父親の本当の愛情を肌で知るのは、その父が亡くなった後のことが多いようです。

 高知県の35歳の女性が次のような文を書いています。(兵庫県加美町篇「ちょっとてれくさい孝行のメッセージ」より)
「苦労して、やっとわかった親心。くそじじいはお不動さま。鬼ばばあは観音さま」

若い頃さんざん罵り続けた親だけれど、結婚して子どもができると、子育てや所帯の苦労を通して親の心に仏心を見ることができたのです。

 また、ある男性は次のように歌います。
「子を連れて来し夜店にて愕然と われを愛せし父を想へり」
夜店に来てはしゃいでいるわが子の姿に、ふと己が幼少の姿を重ねてみるのです。

「そうか。おれもかつて父に連れてきてもらったことがあったなあ。いつも難しい顔をしていた父だが、今の俺も同じ顔なのか。父も私を愛してくれていたん だ」
と、愕然とする程に思い知らされたというのです。

 「仏説父母恩重経」には「父に慈恩あり」と説かれています。慈とは最高の友情という意味です。母親の悲しいまでに優しい愛情を受けた恩(悲恩)に対し て、父親からは厳しい愛情を受けた恩があり、それを慈恩といわれるのです。

 無量寿経には「大悲風のごとし」と説かれています。父親の愛情も仏の慈悲に似て、いつも風のように私に呼びかけてくれる働きがあるのです。風の気配に、 父親の男としての眼差しを感じるのです。では、両親が存在しなければどうすればいいか。

 「恩送り」という言葉があります。直接に恩を受けた相手ではなく、別の誰かに恩を送っていくのです。親や祖父母から受けた恩を、子や孫に送る。先生や多 くの人から受けた恩をボランティアという形で、学校や社会に奉仕する。これが「恩送り」です。

 なによりも大切な恩送りは、先祖から伝えられてきた、念仏にいかされ育まれてきた家風というものを、しっかり次の世代に送ることであると思います。
 
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